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吉永小百合に似てる?

いままでに書いたように、母ちゃんは、よくみんなの会に顔を出した。血液で困っている人がいればすぐに献血してくれる人を多勢連れて来た。

バザーの時にも友達を連れて来てみんな楽しそうに活動した。

一人住い老人の家庭を訪問してやさしい声をかける心のやさしさもあった。

会としては何も計画を企てていない時でも、一人でバザーのための出品おねがいのちらしを持って、一軒一軒家庭訪問をして来る積極性もあった。

料理をつくって食べさせてくれた、その味も、おいしかった。

何ごとをするにも決して労をおしむということなく、朗らかないい感じの娘だった。

“女房にしたら、いい女房になるだろうな”心ではそう思った。

しかし、母ちゃんと出逢って一年半、父さんの身近にいて、惚れなかった、ただの一度も結婚したい、と思ったことがなかった。

そのわけは、

母ちゃんには悪いけど、正直に言うとやっぱり顔だよ。女性週刊誌の表紙に出ているような美人じゃないよね。

そしてスタイルだよ。どう見ても、スラリとはいいがたいだろう。

背の高いのはいいんだ、父さんが背が低い方だから。子どもの頃、大きくなりたい大きく見せたい、と悩んだぐらいだから、“大きい女性と結婚すれば、生まれる子どもは背が高くなるかもしれないから、結婚するなら背の高い女性と結婚しよう”と思っていたのだから。

しかし、母ちゃんは背も高いが横も大きいんだ。足なんか大きくて大根なんでもんじゃないぞ、象さんの足みたいだろう。

もし本当に吉永小百合みたいにかわいくて背が高くてスラッとしていたら、きっといっぺんに一目惚れしていたと思うんだ。

父さんが独身の頃、結婚をしている人から、「女房は顔じゃないよ、人柄だよ、根性がよくなかったらパーだよ」とよく言われた、しかし、やっぱり、“どうせ一度しかない人生でたった一人の女性だから、カワイイ美人を女房にしたい”と思い続けていたんだよ。

自分の顔やスタイルのことは棚にあげて、といわれることは承知の上だけど。

二年間空白があった。別に何も感じなかった。そして再会した。

今度は父さんの方から好きになった。

結婚しようと言った。

母ちゃんは二年前と変ってはいなかった。相変らずの顔だった。やせてスマートになっていなかった。相変らず、父さんの倍ぐらいある大きな足だった。

街中をサッソウと行くスマートな女性の脚をチラリながめて、せめて母ちゃんもあれぐらい細ければ、と思うだけの心のゆとりは失ってはいなかった。

どんなにオシャレをしても、服装雑誌のモデルにはほど遠いセンスだった。

しかし、惚れてしまった。

惚れてしまえばおしまいだ、“それはそれでいい、丈夫で長もちするだろう”と悟りの気持もわいて来るものだ。

結婚したあとで、

「イモネエチャンがイモカアチャンになった」とか「ポストを抱いているようだ」とからかうと

私ねえ、高校生の頃は吉永小百合に似ていると言われてたのよー」と自慢をする。「ウエー、吉永小百合がかわいそう」とおどけるのだが、惚れてしまうと不思議なもので“そういえば吉永小百合に似ているところもあるなー”と思うようになるものだ。

ここに本物の吉永小百合の写真と、吉永小百合に似ているという母ちゃんの写真がある。美の判断はきみにまかせる。

ともあれ、父さんは、嫁さんは世界一の美人でなければ、と思い続けていたことはたしかだ。

決して、顔じゃないよ心だよとは思っていなかった。

そしてやがて、今度は父さんが独身の人に「顔じゃないよ心だよ」といいはじめるにちがいない。そんな気がする。

そうだ郵便ポストのようだと言ったろ、喜生君は、太くて丸い一本足で立っている赤い四角い箱を連想するかもしれないね、父さんが子供の頃には竹筒のような丸いポストが街中に建っていたんだよ。

母ちゃんをポストのようだと表現したのは上から下までストンと丸いという意味だ、念のため。

橋幸夫だって

母ちゃんは、父さんと違い、顔のきれいな人には魅かれないの、どういうわけか。

だから、一白惚れではなく、だんだんとその人の性格を知って好きになってゆくタイプなの。

母ちゃんは、鼻が丸くて美人ではないけれど、高校生のころ、よく吉永小百合に似ているといわれたの、“そうかしら”とうれしくなって、鏡をじいっとみつめたりしたこともあったのよ。

父さんはよく、母ちゃんの顔を見ては、クスクスと笑い“おもしろい顔をしているな”という決り文句を口にするの。

だからそんなときは「高校の頃は吉永小百合に似てると言われたのよ」といいかえすの。

父さんも決して美男子ではないのに、母ちゃんのことばかり言うのよ。

母ちゃんは、父さんの顔には魅かれないけど、仕事に対するバイタリティーは本当にすばらしいと思っていたのよ。

そうそう、母ちゃんが吉永小百合に似ているといわれた、と自慢していたら、

「俺は若いころ橋幸夫に似てると言われたよ」と父さんが言ってたわ。

橋幸夫に似てるかしらねー?!

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——————————————————————————————— この話は、わたくしの父が1980年に自費出版で、自分と兄の二人に書いた本です。 五反田で起業し、36で書いた本を読んで育った、息子が奇しくも36歳に、 五反田にオフィスを構えるfreeeの本を書かせていただくという
廣升 健生
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