musuko31

新婚旅行なし

新婚旅行は行かなかった。お金がないからではない。父さんの仕事が多忙すぎた。
静江おばあちゃんが「お籍だけは、お籍だけは」をゆずらないので、毎月一回母ちゃんと二人で柏崎まで行った。
結婚式の日どりが決ったとき、もう君ができた、旅行どころの話ではなかった。

結婚式は柏崎市の“乃佐和(のざわ)”という結婚式場であげた。静江おばあちゃん達が決めた式場で、九月二十一日だった。その日どりも、静江おばあちゃんが決めた。
父さんは、養子にならなくてすむなら、あとは全部、静江おばあちゃんの言いなりになってもいいと思って、全部静江おばあちゃんまかせだった。
普通に結婚する人は、新婚旅行はどこにしようか、結婚式は洋装にしようか和服にしようか、友人を何人招待しようか、と二人で、話し合って決め、そしてそこに楽しい語らいがあり想い出もできるのであろうが、父さんと母ちゃんにはそんな思い出はない。母ちゃんと父さんの結婚までの思い出は、静江おばあちゃんをいかに納得させるか、ただそのことだけであった。

そんな訳で、結婚式場のお金も父さんは払っていない。全部柏崎のおばあちゃん達が払ってくれたのだ。
あとから父さんが「私も男として体面もあるから、せめて半分だけでも出しまずから」と言ったのだが、「エエですて、エエですて」と……。
父さん、静江おばあちゃんに頭はあがらない。

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