女になったの
都おばちゃんは、学芸大にパスして、柏崎からアパートに帰って来た。
母ちゃんは、うれしいことでも悲しいことでも何でもペラペラしゃべってしまわないと気がすまないタイプの女性らしい。
帰って来たばかりの都おばちゃんに、母ちゃんは、
「ネエ、ミヤちゃん、私女になったのよ、女に」といったんだそうだ。
都おばちゃんは、何のことだかわからず、キョトンとした顔をしていたらしい。
母ちゃんはなおもシツコク、
「女よ、女、女になったのよ」
「お姉ちゃんが女に、なーにおんな、女??」
都おばちゃんは、意味がわからなかったのか、意味をわかっても、まさか、と信じなかったのか。ともかくその時、都おばちゃんは、いっこうに驚いたような顔をしなかったそうだ。
母ちゃんは、好きだった、長い間想いつづけた父さんに抱かれたのが、よほどうれしかったのかもしれないね。
ともかく、それからというものは、何かの話のたびに、
「私は、結婚するまでは、絶対に清き関係でなければいけない、許すなんて絶対にいけないことだと思っていたわ。でも、本当に好きな人だったら、そんなことはないわね、私考えが変ったわ」と言うようになったんだよ。
愛しあう者同志が結ぼれる。それは、いつであれ、どのような形であれ、美しく楽しく尊いことなんだね。
母ちゃんと父さんは、このようにごく自然に愛しあい、認めあった中で結ぼれたんだよ。母ちゃんのアパートで、都おばちゃんが、柏崎に帰っているるすの間に。
喜生、でもね、やっぱり、結婚するまで清い交際をしようという理性は必要だよ。
父さん達は、その理性よりも愛情の方が強かった……。ということだからね、念のため。
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