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七月七日結婚します

柏崎から上野駅まで帰りの列車の中で、父さんは母ちゃんに話した。

「お母さん達はどうしても品田姓にならなければ結婚を許してくれそうにないけど、ぼく自身はどうしても養子になるのはイヤなんだけど、きみ自身は籍のことをどう思っているんだい」

「私は、できたら母さん達が言ってるように品田姓になってくれれば円満にゆくけど、貴方がそれがイヤなのだから、私が広升姓になっても平気よ。私は籍はどっちでもいいの」

「君はどっちでもいいのだろうけど、あれだけ強く反対しているのだから、もう何回話し合っても平行線じゃあないのか」

「じゃどうする?」

「おしきるよりほかないんじゃない」

「おしきるということは、広升姓でゆくということか」

「そうね」

上野駅から、勇者の園一号館に帰った。中田ハナおばあちゃんが待っていた。そこですこし話して、二人で近くの喫茶店にゆきさらに話を続けた。そこで父さんと母ちゃんが約束しあったことは、

一つ、両親がどんなに反対しても二人は結婚をする。

一つ、七月六日から、勇者の園一号館で夫婦としての生活をはじめる。

一つ、これらのことはすべて、親、親戚、友人に公開し、理解協力をしてもらうよう努める。

この三つであった。

静江おばあちゃんは籍のことで二人の結婚は反対だった。しかし結婚をあきらめるわけにはゆかない。かといって無視することはできない。無視をしたら人間としての道にはずれる。

母ちゃんは保育園の保母、父さんはみんなの会の団体の長。お互いに社会的な背景がある。カケオチして姿をくらますということもできない。そこで“公開カケオチ”なる新語を生み出した。

公開カケオチとは、すべて親にはお知らせします。住所も、そのときの胸のうちも、しかし、親の意見どおりに動くのではなく、自分達の自主的な行動をしますよ。というものである。

七月六日から一緒に生活をします、という七月六日の日を決めたいきさつは次のようなわけからである。

母ちゃんとこの約束をしたのは五月六日の夜だから、それから指折りかぞえて二ヶ月間あればその間に、どうしても反対というのなら娘をつれもどしに来るとか、もう一度話し合いをしようと、静江おばあちゃん達の方から行動をおこすか時間のゆとりがある。そのゆとりを持つことはお互いにフェアである。

またあまり長く先になりすぎても、気持がだれて来るからという理由からであった。

七月六日と日時を決めたのは父さんなのだ。七月七日はたなばたさまで縁起がいいのだが、その日は月曜日であった。引越などするのには、日曜日がいい。だから七月六日から一緒に生活することにしようと、二人で決めてすぐ、その日の夜静江おばあちゃんに電話をした。

「おっかちゃんですか、あのね、私達は二人とも愛し合っていますから、どうしても結婚します。広升さんは養子になるのはイヤだといってますから、私の方が広升になります。そして七月六日から一緒に住みます」と母ちゃんがいった。

「いけませんよ、親の許しを得ないで勝手なことをしては……」

「美津子は、ムコをとることになっているんだから」

「私をウッチャラカシテ、いけませんよ」

「広升さんは私に籍をくれるといいましたがね」

静江おばあちゃんは興奮して、許さない反対だ、といい続けた。

このときから、養子になるならぬ、という問題に関して、静江おばあちゃんと父さんは火花を散す攻防戦をはじめたのである。

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