musuko30

結納金なし

そうそう、結婚をする前に、お仲人さんをたてて、結納を交す儀式がある。これはよほどのことがないかぎり、省略する人はいない。
しかし、父さん達はその結納をしていないんだよ。
父さんは結納とは男性が仲人さんと一緒に女性の家を訪ね、
「お宅の娘さんを下さい」という気持で結納金を差し出すものだ、とばかり思っていた。
それが、父さんがはじめて母ちゃんの家に行った五月のとき、静江おばあちゃんから、
「養子になっておくんなセエテ、お籍だけ下セエテ、結納金も私の方で用意しておりますがね」
といわれてハッとした。
「エッ結納金ですって」
“ああそうか、結納金は、籍をもらう方が、離す則に対して贈るものなんだ、そうだそうだ”とあらためて納得したのだ。
静江おばあちゃんは、あくまでも養子になって欲しいと思っているので、結納金は出すべきものであって受けるものではない、と思っている。
父さんの方も、結納金は出すべきであって、養子になって結納金を受けとるなどととんでもないと思っている。話は平行線、それでも、結婚式をするまでに、父さんは、
「結納は形式だけでもした方がよいのでは……お仲人をたててゆきますけど」とおばあちゃんに話してみたが、
「いいや、エエですテ、結納金はエエですテ」とゆずらなかった。
結納金を受け取ったら、本当に嫁に出したことになる。静江おばあちゃんは、そう思っていたようである。
父さんは、はじめはお金がないからと思って、いらないと言ってるのだろうか。と思ったが、何度も話しているうちに、その意味がよくわかったので、結納金を贈るということをやめた。
結納金は、普通十万~三十万ぐらいだときいていた。
そこで父さんは、結納金を受けとらないのだから、そのかわりに、母ちゃんに指輪を贈ろう、と思って、友人の宝石加工をしている松村さんにたのんで、二十万円のダイヤの結婚指輪をプレゼントしたんだよ。

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