妊娠5ヶ月目の前置胎盤による出血と自宅安静
あのね、こうちゃん。
不妊治療の末、たった1個の受精卵が細胞分裂を繰り返した!
結婚から3年目経った2014年の春。こうちゃんは、ママとパパが一念発起し取り組んだ不妊治療の末、授かった命なんだよ。ママの体から卵子を4つとりだし、パパの精子と受精させてできた受精卵が3つ。うち、2つは発育が不十分だったけど、たった1個、たった1個の受精卵が分裂に成功し、もう一度ママの体内に戻したんだ。
受精卵は、1つの核が2、4 、8、16……。二乗で増え、複雑な細胞体へ。本当にキラキラして宝石みたい、なんて思っちゃった。ママは、クリニックからもらった画像をなんども見返し、キスをしたんだよ。
仕事に没頭していた5ヶ月、2滴の血液が便器に!
あれだけ何に替えてもほしかった我が子、それ以上の欲なんてもったら罰があたると思ってたけど、つわりもなく食べたい、寝たい、仕事もしたい、出かけたい……と、やがて「したい」が増幅してきちゃった。気づくと、妊娠前と同じように、夜まで仕事に没頭。スケジュールは、パンパンだった。
そんな折、5か月に入った朝。寝ぼけ目でトイレへ。水を流そうと思って便器に目をやったら、さーっと血の気が引いた。
2滴の血が便器にたまった水ににじんでたんだ。ママは、その場に立ちすくんじゃったけど、とにもかくにも自分では判断できないと、電話をかけ病院へ。少しの変化が、失うことを想像させる。
前置胎盤が発覚! 出血から「我が子を失う」ことを想像してしまった
駆けつけた病院で産婦人科医に聞くと、出血の理由はこうだという。
赤ちゃんに血液や酸素を送る機能をもつ「胎盤」が、通常は子宮内部の背中側の上のほうにつくのが、私の場合は子宮の入口にかぶさっている。
子宮口近くに太い動脈がある。
少しの動きで胎盤や血管が傷つき、出血する場合がある。
いわゆる、前置胎盤。
痛いとか苦しいとか感じないけど、もしも胎盤が傷ついてしまったら、赤ちゃんに酸素を送れなくなってしまう……。
「心配があったら、遠慮なく連絡してください。そのための病院。赤ちゃんは、元気に動いてました」
医者の言葉に胸をなでおろす。自分の体内に別の命があるというのは、どれだけうれしく、どれだけ「失うかも」という想像力を掻き立てるか。
「ほしい」と思ってかなったら、失うことが恐怖に変わるんだね。怖いことばかりを想像した、そんな夏だったんだよ。