対義語を繰り返し、ボキャブラリを増やそう #22 幼児と外国人・帰国子女の日本語教育ラボ

「日本語ラボ」シリーズは、日本語教師であるアコが、日々の学習・実践した内容を振り返りながら、まとめています。日本語の学習者にも、読み物としてもお読みいただけるシリーズとして育てていきます。# 22 語彙編

インフォメーションギャップを埋めたい!

突然ですが、言葉を使った「コミュニケーション」ってなんのためにあるのでしょう。

いろいろな目的はありますが、日常的には、「インフォメーションギャップ(それぞれが持っている情報の差)」を埋めるために使われていると思います。意見の差とか、推論の差とかありますが、生活する上では、まず情報の差を埋めることが大事ですよね。

たとえば、医者と患者。

患者の症状を知らない医者は、いろいろ質問します。

医者「どこが痛いんですか」

患者「頭です」

医者「いつからですか」

患者「昨日の夜からです」

という具合に。

 

親子もそうですよね。

母親「お腹空いてる?」

子ども「まだ空いてない」

母親「じゃあ、7時ころでいい?」

子ども「うん」

 

この「インフォメーションギャップ」を意識していないと、勝手に病状を判断したり、憶測で薬を出したり、親が自分の都合だけで子どもを動かしてしまうことになります。

なので、「言葉」を介すわけです。

相手に知ってほしいと思うから、言葉を発するんですよね。

子どもの「おっきいお魚」でOKとしていませんか

ただ、

我が子との会話となると、なかなか理屈どおりにいかないことがあります。

とくに、子どもの発話が遅いとか、親が面倒くささのあまりにインフォメーションギャップがあるという前提を忘れてしまうと、子どもの発話量をぐんと減らしてしまうことになります。

たとえばこんな経験ありませんか。

子ども「ねぇ、見て、おっきいお魚!」

親「あ、そうだね、おっきいね」

子ども「こっちもおっきい」

親「あ、そうだね、おっきいね」

子どもは、魚に気づかない様子の母親に「魚を見て、大きいよ」と伝えているのですが、親はおうむ返しでおしまい。上の会話だと、子どもが情報を持っていて、親は聞いているだけですよね。まだ2歳頃の子どもならこれでよいのですが、3歳、4歳になると、どんどん語彙量に差が付いてきてしまいます。

大事なのは、「親が子どもよりも、ほんの少し、情報を持っている」という状態です。

親が子どもよりも、ほんの少し、情報を持っている状態にするには

これがどういうことか、というと。

上の会話だと、「大きい」「魚」「見て」だけで会話が成立し、おそらく数ヶ月後も同じ語彙を使い続けてしまうでしょう。ですが、親が子どもの知らない情報を少しずつ与えていかないと、語彙は増えません。

最近、レッスンなどで、「語彙が増えない」という、お母さんやお父さんのお悩みを伺う機会が多いのですが、この理由のひとつとして、親が子どもの情報に歩み寄りすぎるのではないかと思っています。

そこで、とくに3〜5歳の子どもに差が出てくる「対義語」「接続詞」を強化するために、最近ではレッスンを受講してくださるお子さんとぬりえを楽しんでいます。

たとえば、水族館に行ったという話の流れで、

子ども「お水、たくさん」

と表現したとします。

そうしたら、すかさずイラストを描き、

アコ「お水がたくさん入るね、深いね。こっちは深くないね、浅いね」

と語彙を増やすようにしています。

3〜5歳の子どもをみると、形容詞には使用頻度に差があります。目の前のものを直接言い表すというよりも、比較によって表される言葉が多いからです。

「大きいお魚」も、「これまでみた小さい魚」との比較があるからこそ、「大きい」と表現しているわけです。

そうなら。

子どもから「大きい」「多い」「寒い」など形容詞が出てきたら、すかさず、対義語を伝えてください。

子ども「ねぇ、見て、おっきいお魚!」

親「あ、そうだね。こっちの魚は大きくないよ。小さいよ」

子ども「うん、こっちは大きくない。小さい」

親「この魚は半分くらいかな」

という具合です。

これで、「大きい」のほかに、「大きくない」「小さい」「半分」という語彙が親から子に伝わるはずです。

親子の会話でも、1日1語、新しい言葉を与えれば、年間で365語を獲得できるわけです。千里の道も一歩から。気長に楽しんで子どもと会話を楽しんでいきたいですね。

 

 

 

 

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