妻・美津子
母ちゃんと結婚した。
品田美津子が、広升勲の妻美津子となった。
父さんがはじめて、母ちゃんを「妻・美津子」と書いたのは、保険加入の契約のときだ。そのときはなんとなく、うれしかったな。
会員に上段納という人がいる。その彼が、第一生命の保険の外交員になった。
「会長、第一の加入者になって下さいよ」とたのまれた。
父さんは彼の人柄が好きだったし、もし万が一にも父さんが死んだとき、母ちゃんにみんなの会のことが全部かぶさって来たらかわいそうだし、と思って、加入することにした。
父さんが死んだとき、二千万円の保険金がおりる。その受けとり人が、母ちゃん、つまり、妻美津子となっている。
契約書を書くとき、受取人の欄に、妻・美津子と大きな字を書いた。チョット照れ臭かったが「おれも一人ではないんだなー」と思ったね。以後、毎月、一万三百二十円づつ毎月、集金にくる人に支払っている。
この二千万円は父さんが死ななければおりない。死んだあとで誤解があるといけないので書いておく。
毎月の保険料は、父さんの給料の中から払っていない。みんなの会の経費から払ってある。ということは、みんなの会に出資している人、勇者の園に在園している人、会の職員の人達が困らないために、代表者の死に対して保険がかけられているのであって、個人のためではない。
受け取り人が妻・美津子となっているが、あくまでも、会長の妻として事後処理をしなさいというためである。
父さんが死んでも、そのお金は、会のためであって、母ちゃんときみだけのためではない、ということだ。
不安であろうが、安心しなさい。人はみんな、困っていない時は素知らぬ顔をしていても、困ったときは助けてくれる。父さんが死んで、保険金がそっくりこなくても、きっと助けてくれる。
毎月の保険料は、会の経費から支払らわれている。保険金は、みんなの会のものなのだ。くり返して、念のため。