3歳からの会話はインフォメーションギャップを意識しよう #04 日本語ラボ

「日本語ラボ」シリーズは、日本語教師の卵であるアコが、日々の学習した内容を振り返りながら、まとめています。日本語の学習者にも、読み物としてもお読みいただけるシリーズとして育てていきます。
# 04 初級クラスの教室活動_コミュニカティブアプローチ

ちゃちゃちゃっとして行こう!

母「こうちゃん、まだ食べてるの? ちゃちゃちゃっと食べてさ、行こうよ」

息子(むしゃむしゃ……)

「え? ママ、なんて言ったの? ちゃちゃちゃってナニ?」

(大のおにぎり好き。口の中に押し込んでいます)

母としては、早く保育園に連れていきたい。そのため、朝はとりわけ言葉が雑でテキトーです。
本来なら、
「早く食べて、保育園に行こうね」
というところを
「ちゃちゃちゃっと行こうよ」
で済ませてしまう。

で、いつもなら、言ったことすら忘れてしまうのですが、
この時は強烈に覚えていました。

3歳4ヶ月。
知っている言葉と知らない言葉が明確に聞き分けられるようになり、
知らない言葉が「異物感」として残ったようです。

「ねぇ、ママ。チャチャチャってなに?」

「あ、えっとね、急いで動くってこと」

「急ぐのが、ちゃちゃちゃね」

「うん、ちゃちゃちゃっとご飯を食べて、ちゃちゃちゃっと歯磨きして、ちゃちゃちゃっと靴を履いて、行こう!」

……私は、感慨無量でした!
なぜって!?
これまでの「言える」「知ってる」という理解とは違う、次のステップに突入したのです。

「インフォメーションギャップ」こそ、語彙を増やすチャンス!

息子が四字熟語をひたすら音として覚えていた2歳頃に使っていたのは、いわゆる「オーディオ・リンガル・メソッド」という方法。聞いて、正確に再現することが大切だったのです。

けれど、3歳になった今は、実際のコミュニケーションを想定した会話のバラエティが問われてきます。この指導法を「コミュニカティブ・アプローチ」というのだそうです。

なので、2つの方法を会話で比較してみると。

オーディオ・リンガル・メソッド

オーディオ・リンガル・メソッドの場合は、
音を正しく聞いて再現することが重要視されます。
ですので、シーンや用法よりも、音を繰り返し練習していきます。

母「ちゃちゃちゃと行こう」
息子「チュチュ、ちゅ?」
母「ちゃ・ちゃ・ちゃ」
息子「チャ、チャ、チャ。チャ、チャ、チャ」
と、こんな感じ。

だから、知っている言葉や見たことのある言葉を
なんども繰り返しながら、
母「危ない、危機一髪だね」
息子「ききいぱちゅ」
母「きき・いっぱつ」
息子「きき・いっぱつ」
母「そう、きき・いっぱつだよ」
と音を修正していました。

表にも書きましたが、親の粘り強さ、辛抱強さが要です。

コミュニカティブ・アプローチ

一方、コミュニカティブ・アプローチは、
コミュニケーションを取りながら、
必要な情報を互いに補完していくことが重要です。
言い換えると、会話するどちらかがその言葉を知らない、
「インフォメーションギャップ」がコミュニケーションの動機
なっているという前提です。

なので、冒頭の会話は、
コミュニカティブ・アプローチに添いながら、
母が息子の「知らない」部分について
情報を提供していきます。

母「ちゃちゃちゃと行こう」
息子「ママ、チャチャチャってなに?」
母「急いで動くってこと」
息子「そうなんだ、ちゃちゅちゅっと歯磨きしよう」
母「そうそう、ちゃちゃちゃっと上着を着よう」

もう、ちゃちゃちゃという音にはこだわらず、
早く動作するというニュアンスが通じたので、よしとしています。

「危機一髪」の例は、こんな具合に。

母「危ない、危機一髪だね」
息子「きき…?」
母「危なかったけど助かった時には、キキイッパツというよ」
息子「そっか、車がきたから危なかった。キキイッパツ」
母「そう、きき・いっぱつだよ」

親は、言葉を正しく発音するというより、会話のシーンやパターンを増やしていくことが要になります。

そのため、親が教えるという立場ではなく、子供に尋ねるという立場を取りながら、シミュレーションを繰り返していきます。

2歳までのオーディオ・リンガル・メソッド、3歳からのコミュニカティブ・アプローチ

2歳までは、とにかく言葉をインプットすることに注力してきました。そんな中、ブログを読んだ方からは、「(失笑を込め)そんな言葉を覚えても使わないのでは……」とか、「挨拶がちゃんとできたほうがいい」という声もいただきました。

いずれも、その通りです。

ですが、やっぱり学習には段階があって、最初は「音を聞き分ける」、次に「場に応じた言葉を選ぶ」なのだと思います。

そういう意味で、2歳の頃(初期の学習段階)はいろんな音を聞き分ける段階。できうる限り、繰り返し、繰り返しインプットしてきました。それを経た今だからこそ、「聞いたことがない」を瞬時に判断できたわけです。そして、冒頭の「ママ、チャチャチャってなに?」と聞かれた時は、「あぁ、このフェーズにきたんだな」と感動しました。

一見、無意味な「チャチャチャ」も日本語であり、何か意味がありそうだという推測をして聞いてくれた。

なので、嬉しくなった母は、ここからのやりとりをなんどもパターンで練習し、結局のところ、仲良く遅刻してしまったのでした。

仕事は、万が一に備えて工夫できても、息子のこの瞬間は、二度とないですもん!

そんな感じです。
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