子育てのユートピアはどこにあるかを島根で考えた #21幼児と外国人の日本語教育ラボ
「日本語ラボ」シリーズは、日本語教師の卵であるアコが、日々の学習した内容を振り返りながら、まとめています。日本語の学習者にも、読み物としてもお読みいただけるシリーズとして育てていきます。# 21 言語学編
母親である私こそ、資源だ
息子が年少になってしばらくした頃、「幼稚園か保育園か」問題に固執すると、親が化石化する という記事を書きました。
簡単にいうと……。
東京には、幼稚園か保育園か、◯◯塾か△△塾か、という選択肢がありすぎて、「隣の芝は青く見える病」を起こしていました。◯◯塾に入らなければ、この子はみんなについていけないんじゃないか、とか、幼稚園の方が良いのではないかとか……。言い換えると、「教育=民間サービス」という呪縛にかかっていたことに気づいたのです。
私もまだ子育て4年目。いわゆる小学校教育の準備という意味での教育を人にアウトソースするのが良いか、自分でやるのが良いのか、どちらがどういいというのはわかりません。それだけは、フタを開けてみないとわからないですし、子供の特性や親が費やせる時間とコストにもよるでしょう。
しかしながら、私は、「私」を信じたい。そう思っています。
なぜなら、私たち母親や父親が40年かけて紡いできた知識や価値観こそ、効果的に伝わり、むしろ自分たち親が学ぶことにお金をかけた方がコスパが高く、親も子も幸せだと思うからです。
しかも、幼児期の学習塾や習いごとの範疇では、子供を行儀よくさせたり、あいうえおを書けたりすることはできますが、子供の関心に合わせてクリティカルシンキングを育てたり、虫の違いをとことん追求することは難しいのです。
私も学習塾に勤めていたのでよくわかりますが、教える側もビジネスですから、長期的に塾に通ってもらう必要があります。つまり、講師の手の内にいてもらい続けなければならない。「先生のいうこと、本当に本当だろうか。オレが調べてみる」みたいな子は、あまり望まれないわけです。70〜80点くらいの子が、優良なお客さんなのです。
で、私は息子にどういう子になってもらいたいかというと、好きなことを仕事につなげられるようになってほしい。生きることと仕事をすることを同じ軸で考えてほしい。親にとって、いい意味でアウトオブコントロールな子になってほしいと考えています。なぜなら、いまある職業の半数以上は、ここ10年でAIにとって代わられるからです。つまり、誰でもできる、ルールに従う仕事は残らないからです。
言い換えると、早いうちから「コントロールされるよう育ててはいけない」と肝に命じています。そうはいっても、保育園では集団生活でルールを守らなければならないし、小学校に上がれば、いやでも50分座りつづけなければならないのです。
ですから、いつ、どこで「自分の好きなことを思いっきり掘り起こすか」というと、やはり幼児期に、そして家庭なのだと思います。箸の持ち方やあいうえおの書き方は急がずともそれなりに身につくのですから、時間のある幼児期は特に、親が子供の好きをどんどん応援する。つまり、必要な情報を与えていくことに時間を費やす必要があると思っています。
そう思うと、子供をよく知る親こそが、子どもの未来にとって不可欠な「資源」なのだと思います。
何が図か、何が地か
さて、ここに絵があります。建築や言語学の世界でよく見られる「ルビンの壺」と言われる絵です。
白い所に注目すると壺に見えますし、黒い所に注目すると人が向き合っているように見えます。ざっくりいうと、どっちを主にして、どっちを従にして見ますか、ということです。
言語学の場合は、同じ出来事をどう見るかという時に、この主従の見方を使います。よく聞くのが、
「ビールが半分入っている」
「ビールが半分しか入っていない」とか、
「友達はオードリーヘップバーンに似ている」
「オードリーヘップバーンは友達に似ている」とか。
どっちから見ますか、ってことです。
子育ての桃源郷に欠けているものの正体は何か
そうしたことをつらつら考えていた頃、島根に嫁いだママにご縁とお力をいただき、ふるさと島根定住財団のサポートのもと、島根県奥出雲町で子育て中のママやパパたちとお話しする機会をいただきました。というのも、そのママと夏に東京でお会いした時、東京と島根、それぞれ住む環境に違いはあるけれど、お互いに「何かが子供の教育に足りていないのではないか」、「どこかに子育てのユートピアがあるのではないか」というお話をし、私は何かしらの欠乏感を覚えていたのです。それは、万能な塾なのか、広大な自然環境なのか、ともに切磋琢磨できる仲間なのか、はっきりとした正体はわかりません。ですが、少なくとも親というのは、子育てにちょっと余裕が出てきた頃、「周りの中の我が子」という見方、つまり、図と地を反転させて見てしまうのではないかと思ったのです。そこで、奥出雲町を訪ね、何を「図」として見ていくかということをテーマに対話の場をご一緒することにしました。
木を見るか、子供を見るか
そうして、息子が4歳になろうかという秋、奥出雲町を訪ね、「森のようちえん」にご一緒させていただきました。保育士さんの裏山を幼稚園と見立て、1歳から小学生までの子供たちが駆け回り、炊きたての塩むすびをほおばりました。こうした本格的な野山で遊ぶことははじめてだったので、ひるまず遊べるかなという不安があったのですが、親の心配というのは、本当に無用です。
というのも、ここに一本の木材。
親の私としては、小川を渡ったり、山を登るものという解釈でしかなかったのですが。
滑り台に早変わり。連なったり、寝転んだり、後ろ向きになったり……この1本の木材で、何と飽きずに1時間も遊ぶではないですか。
本当に、子供の力を見せつけられた瞬間でした。そして、私の想像力が本当に貧弱で世の中をつまらなく見ているんだなと、自分に幻滅した瞬間でもありました。
図は子供、地は取り巻く環境
つまり、私は「地」(=周りの環境)で自分や子供がどう振る舞うかということに意識が向いていたわけです。ですが、子供は自分自身が「図」であり、あるものの中で思いっきり楽しんでいます。この光景を見て、ようやく、私の中でストンと落ちた気がしました。
ああ、万能な環境や教師はない。
この子の「知」や「力」が、自分を万能にしていくんだと。
親の「好き」を子供の資源にしよう
そうして、対話の時間を迎え、小学校を利用した「高田コミュニティセンター」へ。子供たちが駆け回るなか、皆が笑顔で場を楽しむ、そんな素敵な時間を共有することができました。
(とにかく走りたくなる気持ちがわかるくらい、広い!)
そこで、早速、奥出雲のみなさんにはこんな質問をしました。
「好きなことは何ですか」
子供にとっての「地」はおそらく「親や保護者」であり、「家庭」です。保育園や幼稚園、学校という世界もありますが、一番のよりどころは「家庭」にほかならないと思っています。だからこそ、子供にとっての「地」、つまり親や身近な大人は合わせ鏡のようなもの。親が楽しめば子供も楽しむ。親がつまらなそうなら子供もつまらないわけです。
だからこそ、「何かが足りない」と思うのではなく、「ママにはこんな好きなことがある」が見えると、子供の世界は豊かになるはず。そう思い、問いかけました。
「好きなことは何ですか」
すると、「高齢の方とすぐに仲良くなれる」、「おふくろの味が得意です」、「学生時代にバンドをやっていて」、「旅が好き」「本が好き」「バレーボールが好き」とわんさか出てくるのです。
それなら、郷土料理を楽しむ場が作れそう、お母さんがドラム叩く姿見てみたい、旅のお話聞いてみたい、本を一緒に読めたら、バレーボールをお父さんも……とたくさんの場ができそう! そして、そうした資源が奥出雲の子供たちの「知」や「力」を生き生きと育てるのだと感じました。
そうなのです。
どうしても私たちは、自分の外に資源を探してしまいますが、実は、自分の中にある「好き」とか「得意」とか、もしかすると「悲しみ」とか「悔しさ」こそが資源になるのではないかと思っています。
もちろん、子供の成長過程や興味によって、補えないことも出てくると思いますが、その時は、得意な人に頼むとか、自分自身が勉強して一緒に調べながら資源を貯めていく。それが、広い意味での「地」、つまり町の資源にもなるのではないかと思っています。
そんな話をしてきました。奥出雲のみなさま、本当にありがとうございました! また、島根に伺います!
廣升敦子(アコ)のプロフィール
日本語教師、上級心理カウンセラー
宮城県出身、東京都在住。千葉大学で小中学校(英語)免許を取得後、教育専門紙の編集記者に。その後、フリーランスのリサーチャーとして、N=1のインタビューを続ける。我が子の成長や親の葛藤を綴ったブログ「コレ芝」でのエピソードは、中京テレビや日経MJ、朝日小学生新聞などで紹介。息子が2歳の時に始めた語句の詰め込み教育を通し、4ヶ月で800語の四字熟語を覚える。これに味をしめて、現在は日本語教師として外国人や児童に日本語を教えている。
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